二人の推し
バイトまでの道
僕のうちからバイト先まで徒歩で40分ほどである。
去年はバンバン地下鉄を使って10分もかからず到着していたが、コロナの時代となり家にいる時間が多くなったことから、運動のために散歩がてら徒歩で行くことにした。最初は、少し面倒くさくて電車を使うこともよくあった。しかし、そんな考えを変えてくれた二人との出会い(?)があった。それは、バイト先までにある2つのお店の店員さんを推し始めたからだ。
料理教室の彼
家から20分ほど歩くと、ガラス張りで外から良く見える料理教室がある。お客さんは30〜40代の主婦層とみられる方々が多く、熱心に先生方とともに料理道具とにらみ合っていた。
働いている方々も女性の方が多く、身なりに気を配った綺麗な方々ばかりだ。
その女性世界の中に珍しく男性がいた。
少しブラウンに染めた髪の毛に170センチ後半はありそうなすらりと伸びた胴に、細くてしなやかな長い腕がついている。目鼻立ちもはっきりしており、マスク越しからもイケメン感が伝わってきた。
男性でも料理を習うのは今時珍しいことではない。だから偏見などはまったくなく、珍しいものを見た感覚だけが残った。
次の日、あの男性がまたいる。よーく見ると、スタッフと同じエプロンを身につけていた。
エプロンを忘れて貸してもらったのだろうか。いや違う。主婦の方々に優しく微笑みかけて調理の仕方を教えている風なのである。すなわち、スタッフなのだ。
こんなイケメンに優しく教えてもらったら、簡単に惚れてしまうような気がする。きっとこの世界では極めて人気者であるような気がする。
僕も一目でその優しい瞳に釘付けになった。下心のない純真な表情がとても好きだ。
その日からこの男性を推さねばという焦燥感にかられ、毎回の出勤が楽しみになった。
和風雑貨屋の彼
料理教室から数分歩いたところに和を感じる雑貨屋さんがある。服や小さなポーチなどが、綺麗に並べられている。どれも素敵なものばかりで、目を奪われる。
しかしそんな雑貨よりもひときわ輝く店員さんがいた。
柔らかく艶のある黒髪に、センスのある丸メガネ、ハリのある白シャツを身につけている。男性とは思えない物腰の低い接客も魅力的である。
この前テレビ局であろうか、大きなカメラを抱えた男性とマイクを持った男性に、そのお店の男性店員がインタビューを受けていた。地上波デビューしてしまった。ファンが増えてしまうではないか。
この店員さんは毎回いるわけではない。だからこそ、見かけた時の喜びがこの上ない。
このお店に自分は似合わないからと、まだ直接話したことはないが、推しというのは直接触れ合わない方がいいのではないかと考えている。
これから
みなさんにも「推し」がいるだろう。それが現実世界に存在しようとなかろうと、日々を彩ってくれる彼らは、本当に幸せの権化である。
推しのいる生活、とても華やかな気持ちになれる体験を是非みなさんにも味わっていただきたい。
それでは、長文失礼しました。
また。